【行政書士が解説】配偶者ビザで離婚・死別したらどうなる?日本に住み続けるための手続きとビザ変更を徹底解説


日本人と離婚や死別したら、すぐに国へ帰らなければいけないの?このまま日本で生活を続ける方法はあるのかしら…
日本人と結婚し、「日本人の配偶者等(配偶者ビザ)」で日本に在留している方にとって、パートナーとの離婚や死別は、ご自身の在留資格がどうなるのかという大きな不安に繋がります。何から手をつけて良いか分からず、悩んでしまう方も多いのではないでしょうか。
この記事では、日本人配偶者との離婚・死別後にすべきことや、日本に住み続けるための具体的な方法について、行政書士が分かりやすく解説します。
申請書類の準備や手続きの不安は、一人で抱え込まないでください。まずは専門家にご相談ください。
大前提:離婚・死別しても、すぐに在留資格はなくなりません
日本人配偶者と離婚・死別したからといって、即時に在留資格が取り消されたり、日本から強制的に退去させられたりすることはありません。
ただし、注意が必要です。あなたの配偶者ビザは、日本人との婚姻関係が基盤となっています。その基盤がなくなったわけですから、何の手続きもしないまま現在のビザで在留を続けることはできません。そのまま放置してしまうと、次回のビザ更新は許可されず、オーバーステイ(不法滞在)になってしまう可能性があります。
そのため、法律で定められた手続きを行い、今後のご自身の状況に合わせて在留資格を変更していく必要があります。
必ず行うべき「配偶者に関する届出」とは?
日本人配偶者と離婚または死別した場合、法的な義務として必ず行わなければならない手続きがあります。それが、出入国在留管理庁への「配偶者に関する届出」です。
これは、「日本人配偶者と離別・死別しました」という事実を国に報告するための大切な手続きです。
届出の期限と方法
この届出は、離婚が成立した日または配偶者の死亡の事実を知った日から14日以内に行う必要があります。期限が短いため、忘れずに行いましょう。
届出の方法は、以下の3つから選べます。
- 窓口で提出: お住まいの地域を管轄する出入国在留管理庁の窓口へ直接持参します。
- 郵送で提出: 東京出入国在留管理局在留管理情報部門届出受付担当宛てに郵送します。
- オンラインで提出: 出入国在留管理庁電子届出システムを利用して、インターネット経由で24時間いつでも届出ができます。
もし届出を忘れてしまったら?
正当な理由なく14日以内に届出をしなかった場合、いくつかの不利益が生じる可能性があります。
- 20万円以下の罰金が科されることがあります。
- 将来、他のビザへの変更や更新を申請する際に、法律を守らない人物とみなされ、審査で不利になる可能性があります。
- 悪質なケースと判断された場合、在留資格が取り消されることもあり得ます。
忘れずに必ず期限内に届出を済ませましょう。
離婚後6か月以上放置すると在留資格が取り消される可能性も
「配偶者に関する届出」とあわせて、もう一つ知っておくべき重要なルールがあります。それは、離婚後、正当な理由なく6か月以上、配偶者としての活動を行わないでいると、在留資格が取り消される可能性があるという点です。
これはインターネット上で「6か月の猶予期間」などと言われることがありますが、正確には「安全な期間」という意味ではありません。法律(出入国管理及び難民認定法)では、この状態が続くと、国があなたの在留資格を取り消す手続きを開始できる、と定めています。
ただし、「正当な理由」があれば、すぐに取り消されることはありません。例えば、以下のような場合は「正当な理由」と認められる可能性が高いです。
- 離婚について裁判で争っている
- 病気で入院している
- 定住者ビザなど、他のビザへの変更手続きを準備・申請している
つまり、離婚後は14日以内に届出を済ませ、その後すみやかに次のビザへの変更準備を始めることが非常に大切です。何もせずに6か月以上が経過してしまうと、日本に滞在する意思がないと判断され、在留資格取消のリスクが高まりますので、すぐに行動を開始しましょう。
離婚・死別後に日本に住み続けるための4つの選択肢
「配偶者に関する届出」を済ませたら、次に今後の日本での生活のために、ご自身の在留資格をどうするかを考えなければなりません。主に以下の4つの選択肢があります。ご自身の状況に最も合う方法を検討してみましょう。
選択肢1:「定住者」ビザへの変更
日本人配偶者と離婚・死別した方が、引き続き日本で暮らすための最も一般的な選択肢が「定住者」ビザへの変更です。
「定住者」ビザは、活動内容に制限がないため、どのような仕事にも就くことができます。転職も自由で、日本人と同様に安定した生活を送りやすいという大きなメリットがあります。
「定住者」ビザへの変更が許可されるかどうかの判断は、個別の事情を総合的に考慮して行われますが、法務省が公表している許可事例を見ると、主に以下のような点が重視されていることがわかります。
定住者ビザへの変更が「認められる」要素
- 正常な婚姻期間
目安として約3年以上、夫婦として同居し、協力し合う正常な結婚生活の実態があったかが重視されます。婚姻期間が長いほど、日本との結びつきが強いと判断されやすくなります。 - 独立した生計能力
これから日本で一人で生活していけるだけの安定した収入や資産があるかどうかが審査されます。許可事例では、看護助手や訪問介護員、会社員として安定した収入を得ているケースが見られます。 - 日本人の子どもの有無
日本人との間に生まれた子どもがいる場合、非常に重要な要素となります。- あなたが親権者として子どもを監護・養育している場合は、子どもの福祉の観点から、許可される可能性が非常に高くなります。
- 親権者が元配偶者であっても、養育費を継続的に支払っている実績があり、定期的に子どもと会っているなど、親としての責任を果たしている場合は、許可の判断において有利に考慮されます。
- 離婚・破綻の理由
離婚に至った経緯も審査に影響します。特に、元配偶者からのDV(ドメスティック・バイオレンス)やモラルハラスメントが原因で離婚に至った場合など、あなた自身に責任がない場合は、人道的な観点から許可が認められやすくなります。実際に、DVが原因で別居や離婚に至り、定住者への変更が許可された事例は多く公表されています。
一方で、定住者への変更が認められなかった事例も公表されています。申請前に、ご自身の状況がこれらのケースに当てはまらないか確認しておくことが大切です。
定住者ビザへの変更が「認められない」要素
- 婚姻の実態が疑わしい
実際の夫婦としての同居期間が極端に短い(例:数か月程度)、または結婚と離婚を繰り返しているなど、当初からビザ目的の結婚だったのではないかと疑われるような場合は不許可になる可能性が高いです。 - 申請者の素行に問題がある
日本で詐欺や傷害といった犯罪で有罪判決を受けたことがある場合や、風俗店で働くなど在留資格で認められていない活動を行っていたことが判明した場合は、素行が不良であると判断され、許可を得るのは極めて困難になります。 - 日本での生活基盤が不安定
離婚後、単身で長期間(例:1年半以上)日本を離れて母国に帰っていたなど、日本での生活の基盤が既に失われていると判断されると、許可は難しくなります。 - 総合的に判断される
たとえ日本人の子どもがいても、親権は元配偶者が持ち、かつ申請者自身に犯罪歴があるなど、複数のマイナス要因が重なった場合には不許可と判断されています。
このように、在留資格の変更審査では、婚姻期間や収入だけでなく、日本社会のルールを守って生活してきたか、そして今後も日本で安定して生活していく意思と実態があるかが総合的に見られます。
選択肢2:学歴や職歴を活かせる「就労ビザ」への変更
ご自身の学歴やこれまでのキャリアを活かして、日本で働くという選択肢もあります。
例えば、大学でITを専攻し、エンジニアとしての実務経験があれば、日本のIT企業に就職することで「技術・人文知識・国際業務」といった就労ビザに変更できる可能性があります。また、ご自身で会社を設立してビジネスを始める場合は、「経営・管理」ビザへの変更を目指すことも可能です。
この場合、就職先が決まっていることや、事業の計画がしっかりしていることが前提となります。
選択肢3:別の日本人と再婚して「配偶者ビザ」を更新
離婚または死別した後に、別の日本人の方と再婚した場合は、現在の「日本人の配偶者等」ビザをそのまま更新することができます。
ただし、前の配偶者との婚姻関係が終わってから新しい婚姻までの期間が極端に短い場合や、ビザの在留期限が迫るタイミングでの再婚は、ビザ目的の偽装結婚ではないかと厳しく審査される傾向にあります。そのため、新しいパートナーとの交際の経緯や結婚の真実性を、写真やメッセージのやり取りなどの資料と共に、丁寧に説明する必要があります。
選択肢4:外国人同士で再婚した場合
再婚相手が外国人の場合は、現在の「日本人の配偶者等」の在留資格を更新することはできません。
もし、再婚相手の方が「技術・人文知識・国際業務」などの就労ビザや「永住者」ビザをお持ちであれば、その方の扶養を受ける配偶者として「家族滞在」ビザなどに変更する手続きが必要になります。
将来の不安をなくすために。「永住者」ビザの取得も検討しましょう
これまでご紹介した選択肢に加えて、将来的な身分の不安を根本的に解消するために、ぜひ検討していただきたいのが「永住者」ビザの取得です。
なぜ「永住者」ビザがおすすめなのか?
永住者ビザを取得すると、以下のような大きなメリットがあります。
永住権のメリット
- 身分が安定する
離婚など、配偶者の状況によって在留資格が左右されることがなくなります。 - 更新が不要になる
面倒な在留期間の更新手続きが不要になります(在留カードの更新は7年ごとに必要です)。 - 活動の制限がなくなる
職業選択の自由度が高まり、起業も自由にできます。 - 社会的信用が向上する
日本で家を購入するための住宅ローンを組んだり、事業のための融資を受けたりしやすくなります。
「永住者」ビザの主な要件
永住許可を得るためには、原則として「継続して10年以上日本に在留していること」など、いくつかの要件があります。
しかし、「日本人の配偶者」の身分を持っている方には、この要件が大幅に緩和される特例があります。ただし、緩和されるのはあくまで日本での在留年数に関する部分であり、その他の要件はしっかりと満たす必要があります。
日本人配偶者がいる場合の主な要件は、以下の通りです。
永住権の主な要件
- 実体を伴った婚姻生活が3年以上継続かつ、引き続き1年以上日本に在留していること。
- 配偶者ビザの在留期間が「3年」または「5年」であること。
- 素行が善良であること
- 公的義務を履行していること
- 独立して生計を営めること
このように、永住許可を得るためには、まず配偶者ビザの更新で「3年」の在留期間をもらえるような安定した在留状況を築き、その上で申請準備を進める、というステップが一般的です。
婚姻関係が良好なうちに、将来の安心のために計画的に永住申請を検討することが、ご自身の身分を守るための最も有効な備えとなります。
配偶者ビザで3年以上の在留期間を得る方法について、詳しく解説した記事がありますので、気になる方はぜひチェックしてください!
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まとめ:配偶者ビザで離婚・死別した場合の手続きについて
この記事では、配偶者ビザを持つ方が離婚や死別を経験した際に、日本で生活を続けるための手続きについて解説しました。
配偶者ビザで離婚・死別した場合の手続きについて
- 【届出】まずは14日以内に出入国在留管理庁へ届出を
離婚または死別したら、まず最初に行うべき法的な義務です。この届出を忘れずに行うことが、次への第一歩となります。 - 【ビザ変更】「定住者」など他のビザへの変更を検討する
そのままでは現在のビザを更新できません。日本での生活を続けるためには、「定住者」ビザや「就労ビザ」など、ご自身の状況に合った他の在留資格への変更手続きが必要です。 - 【永住】将来のために「永住者」ビザも視野に入れる
離婚などの影響を受けない、より安定した身分として「永住者」ビザがあります。婚姻中に取得を目指すことも、将来の安心のための有効な選択肢です。
在留資格に関する手続きは、一人ひとりの状況によって異なり、複雑に感じることも多いでしょう。ご自身のケースでどうすれば良いか、少しでも不安な点があれば、一人で悩まずに行政書士などの専門家へお気軽にご相談ください。
申請書類の準備や手続きの不安は、一人で抱え込まないでください。まずは専門家にご相談ください。